この作品を前にすると、思わずこちらも穏やかな気持ちになりますね。ふっくらとした体を丸め、静かに眠る猫の姿。大正期特有の柔らかな造形と素朴な彩色が相まって、まるで時が止まったかのような安らぎが漂っています。
白磁のようなマットな質感に、首元の紅色の布飾りがアクセントとして映えています。この控えめで上品な色使いが、大正時代の美意識をよく表しています。華美になりすぎず、それでいて十分な存在感。職人の優れた感性と観察眼が感じられる逸品です。
猫の寝姿は、古来より「平安」「福を招く安息の姿」とされ、縁起の良いモチーフとして親しまれてきました。特にこの時代のものは、実用品というより“癒やし”や“守り”の象徴として作られた芸術的な置物が多く、この眠り猫もその系譜にあります。
大正ロマンの香りを残すこの作品は、見る人の心をふっと和ませ、現代の空間にも自然に溶け込みます。寝室や玄関、書斎などにそっと置けば、空間がまるでやさしい静寂に包まれるようです。
骨董好きの私から言わせていただくと、この眠り猫は時代の優しさと祈りを宿した“癒やしのかたち”。静けさの中に温かさを感じる名品です。じっくりとその穏やかな寝顔を眺めながら、大正の息づかいを感じてみてください。